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じょよう
女妖
江戸川 乱歩
01 前篇
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,691 字 · 20 页
夜の九時少し前、浩一は相川ヒトミの高級アパートへの道を、わき目もふらず歩いていた。暗い屋敷町にはまったく人通りがなかった。しかし、彼は、とある街角で、びっくりして立ち止まった。殆んど放心状態の彼の目にも、とまらないではいないような、変てこなものが、そこに遠くの街燈の光を受けてボンヤリと立っていた。モーニングに山高帽のサンドイッチ・マンだった。
浩一は幻を見ているのではないかと疑ぐった。人通りもない暗い街角にサンドイッチ・マンが立っているなんて、考えられないことだ。彼は思わず立ち止まって、その方をすかして見た。顔はまっ白だし、つけひげも見えたが、ゆうべの男と同じかどうかはわからなかった。
暗い中の睨み合いが、ちょっとつづいた。すると、サンドイッチ・マンの左手が、サッと水平にあがった。その手は例のステッキを持っていた。シグナルのように、それで右の方をさし示している。そして右手を直角に曲げて、胸の前で、あげたり下げたりしはじめた。同時に、植え睫毛の目と、まっ赤に塗った口が、ひらいたり、とじたりしているのであろう。暗いので、よくわからなかったが、以前の連想から、それが感じられた。