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おんなごころのつよければ

女心の強ければ

豊島 与志雄

「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页

青空文庫

すぐそばへ、橋の欄干にもたれて、並んだ。

「ひどい霧、こんなよ。」

肩の黒髪をぱらりと背後へさばき、右腕のあたりの浴衣に左の掌をあてて見せた。霧にしめってるのであろう。それから、右手の風呂敷包みを、帯のところまで上げて見せた。

「いい物を持って来たわ。何だかあててごらんなさい。」

長谷川は黙っていた。

「こんなとこで、なにしていらしたの。帰りましょうよ。」

「お酒、ありますか。」

「あら、昼間からあがるの。」

「こんな霧だから。」

「じゃあ、霧のはれるまで。」

「そう、霧のはれるまで。」

歩くのにも、足元があぶなかった。

家の中にはいると、着物がしめっぽくしっとりしてるのが、はっきり分った。

千代乃が持って来たのは、大した物ではなく、鮑五つに栄螺七つ。ただ、取りたてのように生きがよく、形も大きく揃っていた。

それよりも、長谷川の心を打ったのは、彼女が懐から取り出してくれた手紙だった。石山耕平から松月館へ来たのである。

いい加減に書き流した普通の手紙で、居心地はどうか、仕事は出来るか、と尋ねていた。――宿泊料が安いかわりに、建物は粗雑だから、客が込んでると、騒々しいかも知れない。