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おんなごころのつよければ

女心の強ければ

豊島 与志雄

「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页

青空文庫

久しぶりに寝る二階の寝床は、なにか新鮮な感じだった。彼は腹這いになって煙草をふかした。

千代乃がまた上ってきた。お盆の上に、銚子と猪口、薬缶とコップが並べられていた。

「どちらでも、およろしい方を。」

そして眼でちらりと笑った。

「さっきね、辰さん、あれで、気を利かしたつもりなのよ。分って?」

味方があるから大丈夫だというつもりなのであろうか。けれども、長谷川はそのために却って苛ら立ちを感じた。

「おやすみなさい。」

長谷川は返事をせずに、銚子を取り上げ、コップで飲んだ。

三

柿沼治郎は三泊だけで東京へ帰って行ったが、その中二日間、彼は用件を持っていたらしく、外に出歩いたり、来客があったりした。殊に松月館主人の松木恵一とは、たいてい一緒だった。

長谷川は二階の室に引籠りがちで、仕事に専念しようとした。然し寝ころんでることが多く、とりとめもない妄想に耽っては、あとで、自ら気付いて苦笑した。

心に、隙間があったのだ。その隙間から、なまぬるい風が流れこんできて、ざわざわと、妄想をかき立てる。下品な浅間しい妄想ばかりだった。

濃霧の中を千代乃が持って来てくれたもの、鮑五つに栄螺七つ、それをみな、彼女は自分に食べさせてくれるだろうか、或るいは柿沼の食膳にも出すだろうかと、長谷川はしきりに推測してみた。