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おんなごころのつよければ

女心の強ければ

豊島 与志雄

「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页

青空文庫

二階の一旅客に気兼ねする理由など、全くなかったはずだ。

然し長谷川にしてみれば、それが、自分の地位の急な転落とも感ぜられたのである。謂わば、主賓から一挙に居候に成り下ったのである。あてがいぶちの食事をぼそぼそ食べ、そこにごろりと寝ころんで、暮れかかった空を眺めていると、へんに佗びしい気持ちになった。食後の皿小鉢をさげにさえ、誰もなかなかやって来ないのである。

「もうお済みになりまして?」

千代乃が上って来て声をかけても、彼は起き上らず、返事もしなかった。

千代乃は縁側に佇んで、彼方の天城山の暮色を眺めた。

「ひまになったら、天城山に登りましょうね。」

彼はただ機械的に頷いて、心の中では、ひまになったら、とその言葉を苦々しく繰り返した。

すべてなにもかもひまになったら、だった。彼女はいま、ひまではないのだ。主人の柿沼の相手をし、兄の松木の相手をし、其他の人々の相手もしなければならないのだ。そんなことのために彼女は存在しているのであろうか。

惜しい……その思いに長谷川はぶつかった。惜しい、そして残念だ……。

彼女の面影が、宙に浮き出してありありと見えてくる。