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おんなごころのつよければ
女心の強ければ
豊島 与志雄
「女性改造」1950(昭和25)年8月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 47,011 字 · 94 页
つまり、辰さんの話の若月旅館の一件なのである。松木はそれを買い取ろうと、盛んに柿沼を口説いた。柿沼の方でも、大規模の製菓会社がいろいろ出来てきた現在では、彼の小さな会社は、戦後の一頃のような利益がないばかりか、次第に経営さえ困難になって来たので、もともとその土地出身者ではあり、松木の旅館業経験をたよりに、後図をはかる気にもなって、二、三の共同出資者を物色し始めた。その方はまあそれとして、若月旅館をいったい誰が実際に切り廻してゆくか。人任せには出来ない。大体のことは松木がやるとしても、松木には松月旅館があるし、松木の妻も善良すぎて手が廻りかねるし、結局千代乃を実務の監督に据えようと、そこに話が向いてきたものらしい。前々からの懸案なのである。
「このわたしを、宿屋のお上さんに、そして女中頭に、すえようとたくらんでるのよ。ねえ、この年齢で、可哀そうでしょう。」
だから、千代乃は反対をとなえた。然し、いくら嫌だと言い張っても、むつかしい条件をいろいろ持ち出しても、結局は無視されそうになったので、最も単純素朴な策略を思いついたのである。お琴の勉強をほんとにやりたくなったので、たとえ若月旅館にはいるとしても、毎日、朝から晩まで、お琴ばかり弾くが、それでもよいか。