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おんなごころしゅうい
女心拾遺
矢田 津世子
「文学界」1936(昭和11)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,514 字 · 36 页
始終ニコニコと笑っているのが癖で、どんなに忙しく動きまわっている時でも、また、何かの粗相で叱られている時でも、このニコニコ顔をはなしたことがない。
「おしもの顔は年中お祭を見ているようだね」
よく、こう云うて夫人は揶揄うのだった。切角、茶の間へ呼びつけて意見をしている時でも、このニコニコ顔を見ていると、ものを云う張り合いを失くしてしまう。まるで、三ツ児を相手にしているようだ、と夫人もつられて笑ってしまうのだった。
「おしもは呆んやりだからね、お春のすることを、ようく見習わなければいけないよ」
折りにふれて夫人はこう云い含めるのだったが、その実、巻紙を、といえば、切手を貼りつけた封筒まで添えて差し出すお春の抜かりのなさよりも、始終粗相をくりかえしては無駄骨を折っているおしもの方へ、妙に愛情が片寄っていく。そして、古くからいるお春よりも、夫人の信用はおしもに篤いのだった。
その夫人の気心をうすうす感付いているおしもは、自分にかけられた信用を地に堕すまいとする心から一そう呆んやりを固執するようになった。この呆んやりが自分の取り得だと知っている。そして、適度の粗相をくりかえす。