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こうい
好意
豊島 与志雄
「改造」1924(大正13)年9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,059 字 · 40 页
「なに、平凡なただの秋の月なんだが……。」
「そりゃあ月に変りはないさ。」
切り捨てるように云い放って、電燈をまじまじと見守ってる顔の、骨立った所々に光を受けて、肉の落ちた凹みには、仄暗い影が匐い寄っていた。それを何気なく見つめてるうちに、私は沈黙が苦しくなってきた。そして、何か云いたいがその言葉が見当らないもどかしさで、しいんとした中に坐っていると、他の意外な圧迫を感じだした。
それは一寸説明しにくいが、まあ云わば、今まで気にも留めないでいた看護婦が――白い服を着て俯向き加減に室の片隅に坐ってる看護婦の存在が、俄にむくむくとふくれ上って私の前に立塞った、というような感じだった。私達他の者がいくら側から気を揉んでも、病人を包み込み病人が呼吸してるその空気は、全く彼女の支配下にある、というような感じだった。
私は妙な気持で彼女の方を眺めやった。白い服の裾がふうわりと膝のまわりに円く大きく拡がっていた。寝不足の艶のない顔に、真直な細い眉が取ってつけたように逆立っていた。――吉岡の容態は案外危険なんじゃないかしら、とふとそんな気もしたし、自分自身が其場に不調和な邪魔もののような気もした。