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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

離婚したからもう貸さぬとはいえぬ。同居のかたちで暮せぬこともないであろうが、千枝の家へゆくことをさえ恥さらしだと考える閑子は、他人のいる家へ帰ってゆく惨めさを、実際の惨めさの幾倍にも考えて泣くのだった。そしてその惨めさの中へおとし入れたのが野村だというのだ。野村は私をたたき出せばそれでせいせいしているだろうが、たたき出された私は帰る家もないといって泣くのだ。

「もうそれは、いわないことに約束したじゃないの。いってもはじまらんことはよそうよ。手離して惜しい宝ものじゃないんだからね。いわば、くされ縁じゃないか。」

くされ縁はこの反対の場合なのにふっと気づきながら、そのくされ縁にでもすがりつきたいほどの閑子を哀れに思わずにいられなかった。千枝の家へゆくといい出したことの起りは、昨日野村の中の娘から手紙がきた、それであった。別れて荷物まで引きとったかりそめの母に、野村閑子様とその表にはかかれていた。バラの花の浮き出た桃色の小さな角封筒に、中身はおかっぱの少女の顔の絵のついた便箋である。少女らしい感傷で、最初の一行目からもう涙の文章だ。――お母さんお母さんお母さんお母さん、いくらよんでもお母さんはもういません――半分が「お母さん」