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つまのざ
妻の座
壺井 栄
「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页
でうずまったその手紙は母を失った少女が母に呼びかける声にみちていた。それは亡くなった実母への呼びかけであるかもしれぬ。ただ母をよぶ声だけで終っている手紙のどこにも、帰ってほしい言葉はない。死んだ母と同じく、もうそばに呼び戻すことのできぬ母として閑子によびかけているだけなのだ。ミネが悠吉と二人で閑子の身のまわりのものをとりにいったとき、閑子との別れに泣いて騒いで野村の気持を一時にしろにぶらした娘たちは、ミネたちのいる隣りの部屋でくっくっと笑いながら何かに興じていた。それはおどろくほどの無邪気さであった。一まつのわびしさを感じながら、これでよい、これでなくてはと、ミネはその時感心した。持ちかえる品物をこまごまと閑子らしく個条書にした手紙を、父親の野村から渡された娘たちは急に顔をよせ、ミネの目の前でその一つ一つをまとめ出した。
「ハサミよ。」
小さな声で突っつかれて、そのハサミをつかっている中の娘はいそいで畳の上にハサミをおいた。
「電気ゴテ。あ、あすこよ、昨日つかったじゃないの。」
それで小さい娘が茶の間へかけてゆく。
「毛の半コート……あら。」
長女は顔をあからめながら着ていた紺のコートをいそいでぬいだ。