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つまのざ

妻の座

壺井 栄

「新日本文学」1947(昭和22)年8月、1949(昭和24)年2月~4月、7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 82,695 字 · 165 页

青空文庫

ははあ、あれだなと思いあたりながらミネはさりげなくいった。

「いいでしょう。いって千枝を助けてやってきてよ。」

千枝はひどいリュウマチで不自由な手足をしていた。閑子が最初に上京した目的は、ミネの家の手伝いをかねて、リュウマチの妹への不憫も含まれていたし、東京へ転入できぬ配給の籍は千枝のうちへ移してあった。その限りでは気がねもない筈だが、そんなことは忘れている時の方が多いような閑子だった。

「千枝んとこもいいよ。もう寒さも峠をこしたからね。関東平野の空気を吸って、あんたもゆっくりのびていらっしゃい。」

すると閑子は皮肉な笑いを浮べ、

「その方が、姉さんも、くつろぐでしょう。」

「おたがいにね。」

冗談にうけると、閑子は急に両手で顔をおおい、泣き声でいった。

「わが家がありながら、わが家へ帰れんようになってしもてからに……」

郷里の家を生涯の住家ときめて、ひとりぼっちはひとりぼっちなりの楽しみもあったというのである。上京してミネや千枝の家をいったりきたりすることも、独り者の気軽さ故の楽しみだった閑子である。それが野村との結婚によって、彼女の四十年の住家は、もう人に貸してしまったのだ。