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ふじんとぶんがく
婦人と文学
宮本 百合子
※「作品について」参照
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 180,792 字 · 351 页
大音寺前の貧は、貧であっても、それは人間の屑のふきあつまりめいた貧で、その一方では、昼夜をわかたぬ廓の繁昌が鳴りとどろいている。界隈に瀰漫している空気には、何とも云えないモラルの虚無的な麻痺が漲っているわけであろう。堅気な、そしてくだける波にさえ花は咲くものを、という思いを抱いている一葉にとって、そういう近所合壁にまじって遂にここに朽ち果て終る我が身かという不安は、追々新たな落つかなさ、焦燥となって迫って来たにちがいない。
周囲から日夜あたえられる刺戟は、そういう不安からの脱出の方向の求めかたにも影響している。焦燥は一葉のこころをこれ迄になかった射倖的な、僥倖をさがす気分に狩り立てて行ったように見える。
二十七年の二月に、こんなことがあった。廓生活の見聞からであろう、美貌で才のある女は、よしやしもがしものしななりとも、遂にあまくも棚引位、山のたかきにのぼることもむずかしくはないだろうと云ったら、妹の邦子が、それはみさおというもののない人でなくては出来ないことだと云ったに対して、一葉は、
くれ竹のぬけいづるさへあるものを
ふしはこのよになにさはるらむ