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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

」

と婀娜な涙声になって、

「羽織が無いから日中は出られない、と拗ねたように云うのがねえ、どんなに嬉しそうだったでしょう。それに土地馴れないのに、臆病な妓ですから、早瀬さんがこうやって留守にしていなさいます、今頃は、どんなに心細がって、戸に附着いて、土間に立って、帰りを待っているか知れません、私あそれを思うと……」

と空色の、瞼を染めて、浅く圧えた襦袢の袖口。月に露添う顔を見て、主税もはらはらと落涙する。

「世迷言を言うなよ。」

と膠もなく、虞氏が涙を斥けて、

「早瀬どうだ、分れるか。」

「行処もございません、仕様が無いんでございますから、先生さえ、お見免し下さいますれば、私の外聞や、そんな事は。世間体なんぞ。」と半云って唾が乾く。

「いや、不可ん、許しやしないよ。」

「そう仰有って下さいますのも、世間を思って下さいますからでございます。もう、私は、自分だけでは、決心をいたしまして、世間には、随分一人前の腕を持っていながら、財産を当に婿養子になりましたり、汝が勝手に嫁にすると申して、人の娘の体格検査を望みましたり、」

と赫となって、この時やや血の色が眉宇に浮んだ。