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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

」

衣紋を直したと思うと、はらりと気早に立って、踞った婢の髪を、袂で払って、もう居ない。

トきょとんとした顔をして、婢は跡も閉めないで、のっそり引込む。

はて心得ぬ、これだけの構に、乳母の他はあの女中ばかりであろうか。主人は九州へ旅行中で、夫人が七日ばかりの留守を、彼だけでは覚束ない。第一、多勢の客の出入に、茶の給仕さえ鞠子はあやしい、と早瀬は四辺をしたが――後で知れた――留守中は、実家の抱車夫が夜宿りに来て、昼はその女房が来ていたので。昼飯の時に分ったのでは、客へ馳走は、残らず電話で料理屋から取寄せる……もっとも、珍客というのであったかも知れぬ。

そんな事はどうでも可いが、不思議なもので、早瀬と、夫人との間に、しきりに往来があったその頃しばらくの間は、この家に養われて中学へ通っている書生の、美濃安八の男が、夫人が上京したあと直ぐに、故郷の親が病気というので帰っていた――これが居ると、たとい日中は学校へ出ても、別に仔細は無かったろうに。

さて、夫人は、谷屋の手代というのを、隣室のその十畳へ通したらしい、何か話声がしている内、

「早瀬さん――」

主税は、夫人が此室を出て、大廻りに行った通りに、声も大廻りに遠い処に聞き取って、静にその跡を辿りつつ返事が遅いと、