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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

腹の虫が泣くんじゃねえ、金子の音だ。びくびくするねえ。お望みとありゃ、千両束で足の埃を払いて通るぜ。」

とあげ膝で、ボコポン靴をずぶりと脱いで、装塩のこなたへボカン。

声が高いのでもう一人、奥からばたばたと女中が出て来て、推重なると、力を得たらしく以前の女中が、

「ほんとうにお前さん、お座敷が無いのですよ。」

「看板を下ろせ、」

と喚いて、

「座敷がなくば押入へ案内しねえ、天井だって用は足りらい。やあ、御新規お一人様あ、」

と尻上りに云って、外道面の口を尖らす、相好塩吹の面のごとし。

「そっちの姉は話せそうだな。うんや、やっぱりお座敷ござなく面だ。変な面だな。はははは、トおっしゃる方が、あんまり変でもねえ面でもねえ。」

行詰った鼻の下へ、握拳を捻込むように引擦って、

「憚んながらこう見えても、余所行きの情婦があるぜ。待合へ来て見繕いで拵えるような、べらぼうな長生をするもんかい。

おう、八丁堀のめの字が来たが、の、の、承知か、承知か、と電話を掛けねえ。柳橋の小芳さん許だ。柏屋の綱次と云う美しいのが、忽然として顕れらあ。

どうだ、驚いたか。銀行の頭取が肴屋に化けて来たのよ。