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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

「はい、いつでも、」

「む、そうか。」と言い棄てに、荒らかに廊下を踏んだ。

「あれ、主人の跫音でございます。」

「院長ですか。」

道子は色を変えて、

「あれ、どうしましょう、こちらへ参りますよ。アレ、」

「院長が入院患者を見舞うのに、ちっとも不思議はありません。」と早瀬は寝ながら平然として云った。

目も尋常ならず、おろおろして、

「両親も知りませんが、主人は酷い目に逢わせますのでございますよ。」としめ木にかけられた様に袖を絞って立窘むと、

「寝台の下へお隠れなさい。可いから、」

とむっくと起きた、早瀬は毛布を飜して、夫人の裾を隠しながら、寝台に屹と身構えたトタンに、

「院長さんが御廻診ですよう!」と看護婦の金切声が物凄く響いたのである。

理順は既に室に迫って、あわや開けようとすると、どこに居たか、忽然として、母夫人が立露れて、扉に手を掛けた医学士の二の腕を、横ざまにグッと圧えて……曰く、

「院長。」

と、その得も言われぬ顔を、例の鋭い目で、じろりと見て、

「どうぞ、こちらへ。いいえ、是非。」

燃ゆるがごとき嫉妬の腕を、小脇にしっかり抱込んだと思うと、早や裏階子の方へ引いて退いた。