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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

と最初の一喝に怯気々々もので、申訳らしく独言のように言う。

酒井は、すらりと懐手のまま、斜めに見返って、

「用らないものを、何だって価を聞くんだ。素見すのかい、お前は、」

「…………」

「素見すのかよ。」

「ええ、別に、」と俯向いて怨めしそうに、三世相を揉み、且つ捻くる。

少時して、酒井はふと歩を停めて、

「早瀬。」

「はい、」

とこの返事は嬉しそうに聞えたのである。

三十一

名を呼ばれるさえ嬉しいほど、久闊懸違っていたので、いそいそ懐かしそうに擦寄ったが、続いて云った酒井の言は、太く主税の胸を刺した。

「どこへ行くんだ。」

これで突放されたようになって、思わず後退りすること三尺半。

この前の、原一つ越した横町が、先生の住居である。そなたに向って行くのに、従って歩行くものを、(どこへ行く。)は情ない。散々の不首尾に、云う事も、しどろになって、

「散歩でございます。」

「わざわざ、ここの縁日へ出て来たのか。」

「いいえ、実は……」

といささか取附くことが出来た……

「先刻、御宅へ伺いましたのですが、御留守でございましたから、後程にまた参りましょうと存じまして、その間この辺にぶらついておりました。