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おんなけいず

婦系図

泉 鏡花

「やまと新聞」1907(明治40)年1~4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 172,760 字 · 343 页

青空文庫

先生は、」

酒井がずッと歩行き出したので、たじたじと後を慕うて、

「どちらへ?」

「俺か。」

「ずッと御帰宅でございますか。」

知れ切ったような事を、つなぎだけに尋ねると、この答えがまた案外なものであった。

「俺は、何だ、これからお前の処へ出掛けるんだ。」

「ええ!」と云ったが、何は措いても夜が明けたように勇み立って、

「じゃ、あのこちらから……角の電車へ、」と自分は一足引返したが、慌ててまた先へ出て、

「お車を申しましょうか。」

とそわそわする。

「水道橋まで歩行くが可い。ああ、酔醒めだ。」と、衣紋を揺って、ぐっと袖口へ突込んだ、引緊めた腕組になったと思うと、林檎の綺麗な、芭蕉実の芬と薫る、燈の真蒼な、明い水菓子屋の角を曲って、猶予わず衝と横町の暗がりへ入った。

下宿屋の瓦斯は遠し、顔が見えないからいくらか物が云いよくなって、

「奥さんが、お風邪気でいらっしゃいますそうで、不可ませんでございます。」

「逢ったか。」

「いえ、すやすやお寐みだと承りましたから、御遠慮申しました。」

「妙は居たかい。」

「四谷へ縁附いております、先のお光をお連れなさいまして、縁日へ。」

「そうか、娘が出歩行くようじゃ、大した御容態でもなしさ。