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よめとりにだいき
嫁取り二代記
山本 周五郎
「婦人倶楽部」大日本雄辯會講談社、1937(昭和12)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,763 字 · 23 页
ぎくりとしたお笛が、慌てて引こうとする手首を、勘兵衛は力任せに突放して、
「二三杯の酒に本性を出しおって、もう言訳は通るまいぞ、どうだ!」
「――――」
お笛はそこへ両手を突き、面を伏せたまましばらくは身動きもしなかったが、やがて静かに顔をあげて、
「恐入りました――」
と息詰るような声で云った、「始めからお謀り遊ばしたものなれば、今更何を申上げてもお取上げはなさりますまい、――けれど、ひと言だけ申上げまする」
「言訳なら聞くまでもないぞ」
「――ただお聞捨てくださりませ」
お笛は面を伏せて続けた、「直次郎さまからお聞及びかと存じまするが、わたくしは生れ落ちるとから父母の顔を知らず、元……屋敷に仕えていた松造と申す男の許で育てられました。父は越前家で馬廻りを勤めていましたとか、仔細のほどは存じませぬが殿の御勘気を蒙って切腹、母も共に自害いたしたと――松造の話に聞くばかり、その後事情あって卑しい世界に身を堕しましても、一日半刻として亡き父母を思わぬことはござりませんでした」
お笛はつきあげてくるものを抑えるように、しばらく声を呑んでいたが、
「武士の娘だ、父の名を汚してはならぬ、――どんな必至の場合にもこれだけは忘れず、そのために数えきれぬ苦しさ辛さを味いながら、操だけは汚さずに参りました。