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よめとりむことり

嫁取婿取

佐々木 邦

「婦人倶楽部」1929(昭和4)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 85,654 字 · 175 页

青空文庫

と斎藤夫人が囁いた。

「はあ」

「もう宜しいようでございますから、私、お茶を出します」

「はあ」

「その時あの隅を締め残して参りますから、ゆっくり御覧下さいませ」

「有難う存じます」

「見つからないようにね」

「大丈夫でございます」

と春子さんはナカ/\もって恥かしいどころでない。至って事務的だった。

「奥さま」

と山下夫人が声を潜めた。

「はあ」

「私達、お玄関へ履物を脱いで参りましたが、気取られはしませんでしたろうか?」

「手ぬかりはございません。直ぐに下駄箱へ仕舞わせました」

「恐れ入ります」

「唯今申上げました通り、お茶を持って参る時に……」

「はあ」

「胸がドキ/\致しますわ」

「私も」

「こんなことじゃお泥棒なんか出来ませんわね」

と斎藤夫人も緊張していた。

客間では、

「例のお話ですが、余り長引くものですから、一寸経緯を申上げて置きたいと存じまして」

「はゝあ」

「手紙でも済んだのですが……」

「いや、お伺い申上げようと存じていたところでした」

「山下という男はナカ/\の念使いで、何をやっても急場の間には合いません」

「はゝあ」

「未だ当分手間がかゝりましょうよ」

「私も別に急ぐことはございませんが、母が大層気に入りまして、頻りに案じているものですから……」