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こをうばう

子を奪う

豊島 与志雄

「中央公論」1921(大正10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,292 字 · 80 页

青空文庫

幾代は子供を見た時の印象を、出来るだけ細かく思い浮べようとした……。

「そんな計画ばかりしてどうするんです?」と彼は云った。

「でもねえ、前からきめて置きませんと……。」と幾代は答えた。

「然しまだ返事がないじゃありませんか。もし断ってきたらどうします?」

「そんな筈はありませんよ。」

「もう約束の四五日になっていますよ。」

「それは約束は約束ですけれど、向うだってそう急にはきめかねるでしょうよ。少しは向うの身になっても考えてやりませんではね。猫の仔一匹やりとりするのでも……。」

「犬猫の仔とは違います!」と彼は叫んだ。

「だから猶更待ってやるのが本当でしょう。」

「いえ、だから、人間一人の運命に関することだから、変にこじれないうちに早くきめなければいけません。」

見方が違うんだ、と彼は考えた。彼女等にとっては、依子は一の玩具に過ぎない。依子の存在に対して、現在愛の心が動いてるのではなくて、愛するという空想を楽しんでるのだ。隙にあかして、ゆっくり期待の時期を味おうというのだ。然し……依子の運命を弄ばさしてなるものか!

「兎に角きめるだけ早くきめたらいいでしょう。」と彼は云った。