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こをうばう
子を奪う
豊島 与志雄
「中央公論」1921(大正10)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,292 字 · 80 页
俺をたしなめているんだな、と彼は考えた。
「家に引取ったら、」と兼子は云いもした、「余りいろんなことに干渉なすってはいやですよ。女の子は女親の方がよく気持ちが分りますから。私ほんとにいい子に育てたいと思っていますの。でも、悪いことをしても私には叱れないかも知れません。そんな時はお母様かあなたが叱って下さるといいんですけれど……。」
彼女の言葉は甘っぽい嬌態を帯びていた。彼は其処に一種の武器を見て取った。彼女は自分一人で子供を占領したがってるのだ、と彼は感じた。占領したいんならするがいい、とも考えた。然し……それでいいだろうか? 理由はなしにただ否という気持ちが、心の中に湧き上ってきた。彼女はそれを見て取ったらしかった。
「おかしいわね。あなたはどうしてそう急に子供がほしくおなりなすったんでしょう?」
「子供がほしいんじゃない。」と彼は答えた。
「そう。では私達にかぶれなすったのね。」
然し彼女の眼はその言葉を裏切っていた。揶揄するような小賢しい光があった。嫉妬してはいけない、と彼は心の中で彼女に云った。そして、自分の子でないという焦燥を彼女の心に起させるのは、最もいけないことだと思った。