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こをうばう

子を奪う

豊島 与志雄

「中央公論」1921(大正10)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 39,292 字 · 80 页

青空文庫

また縁側に出て来た。しまいには其処へ腰掛けて、足をぶらぶらさしながら、しいて空嘯いてみた。

夕食間際に瀬戸の伯父がやって来た。

「一寸廻る所があって大変後れてしまった。……やあ来てるな。機嫌はどうだい?」

瀬戸はそんなことを一人で云いながら、依子を抱いてきて、彼の腕に渡した。彼は黙って受取った。依子は振り向いて敏子の方を見たが、それから彼の顔をじっと眺めた。いつのまにかべそをかいていた。妙に口を大きく引きつらして、今にも泣きだしそうになった。

「いけない、いけない。」と瀬戸は云った。「抱き様が悪いんだ。……まあゆっくり馴れるさ。」

依子は瀬戸の手で抱き取られた。彼の腕にはただ、柔かくてずっしりとした重みの感じだけが残った。

卑怯者! と彼は自ら自分に浴せかけた。夕食の膳に向うと、瀬戸の相手になって無理に杯の数を重ねた。

「あなた、そんなに召上ってもお宜しいですか。」と兼子が云った。

「いいさ、」と瀬戸が引取って答えた、「芽出度い日なんだからね。」

然し芽出度いという感じは、一坐の何処にも現われていなかった。それはただ妙にしんみりとした――それでいてごたごたした――晩餐だった。