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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

柳麗玉 (物思いから呼び覚まされて快活を装い)え? ええ。お供しますわ。

と李剛の様子に眼を配りながら、柳麗玉は李春華とともに入浴の道具をまとめて去る。李剛はそそくさと起って、いま女たちが閉めて出た表のドアを開けて来る。そして、階段のほどよい段に洋燈を移し、第一段に腰かけて人待ち顔に洋燈の下でパイプの掃除にかかる。遠くで汽笛が転がる。朝鮮服の安重根がちょっと室内を覗いたのち、足早やにはいって来る。革紐で縛った古行李を引きずるように提げている。すぐ李剛と向い合って行李に腰かける。

安重根 (微笑して)しばらくでした。

不安らしく階段の上に耳を澄ます。

李剛 (パイプの掃除に熱中を装い、無愛想に)大丈夫です。誰もいない。君の伝言どおりにみんな出してやった。が、そこらでうちのやつに会わなかったですか。

安重根 すぐ前の往来で奥さんと柳に会いましたが、二人とも気がつかないようでしたから、黙って擦れ違って来ました。

李剛は無言でうなずいて、起ってドアのほうへ歩き出しながら、そっとルバシカの下へ手を入れて財布に触ってみる。安重根も行李を抱えて続こうとする。

李剛 (戸口で振り返って)君、洋燈を――。