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あんじゅうこん

安重根

谷 譲次

――十四の場面――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 49,548 字 · 100 页

青空文庫

安重根 (弁解的に)先生、私は家族を迎えにハルビンへ行くんです。

李剛 (笑う)それもいいだろう。

安重根 (懸命に)ほんとに家族を迎えに行くんです。

李剛 (いっそう哄笑って)まあ、いいですよ。解っている。あのスパイの張首明に、仲間であるようなことを言わせて、うちへ使いに寄こした君の心持ちもわかるような気がする。が、もう今ごろは、ウラジオ中の同志のあいだに、君が密偵臭いという評判が往き渡っていることだろう。

安重根 すると張首明は、頼んでとおりに、私と親しくしているような口振りだったんですね。

李剛 (心配そうに)朴鳳錫だの白基竜だの、言うなといっても言わずにはいられない人間だからねえ。

安重根 ははははは、そう思ってしたことです。朴君なり白君なりの口を出る時は、「あいつ臭いぞ。用心しろ」ぐらいのところでしょうが、それが、人から人と伝わっていくうちに、「安重根は日本に買われている」となり、「彼奴はその金でさかんに女房の名で故郷に土地を買っているそうだ」などと、まことしやかな話が出て来るに決まっています。ははははは、私も昨今運動に入ったのではありませんから、そういうゴシップの製造過程はまるで眼に見るようにわかります。