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たぬきじる

完本 たぬき汁

佐藤 垢石

佐藤垢石『完本 たぬき汁』。同一底本的分册已合并为一书。收入:たぬき汁、『七面鳥』と『忘れ褌』、海豚と河豚、うむどん、縁談、議会見物、採峰徘菌愚、酒渇記、酒徒漂泊、すっぽん、増上寺物語、淡紫裳、探巣遅日、盗難、濁酒を恋う、にらみ鯛 、春宵因縁談、姫柚子の讃、美音会、みやこ鳥。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,158 字 · 273 页

青空文庫

おいおい、馬鹿なことを申せ。お前が、妊娠などするものか。とんでもない話だ。だが妊娠でないとすると、下腹の膨れものとあっては重大事だぞ。世にいう血塊というやつかも知れない。早く、婦人科の医者のところへ飛んで行って診て貰え。こんな風に私は笑いながら家内をおどかした。家内は、血相変えて医者のところへ走って行った。診て貰うと家内が予感していた通り、立派な妊娠であるときかされたのである。私も家内も狐に摘まれたような気持ちがした。

一度口あけがあると、それから続々産まれた。長男についで女の子、三人目がまた男の子。一生の間、夫婦二人きりで暮らさねばなるまいと思っていたわが家庭へは、十年ばかりの間に幼い五人の天使が舞い降りて、夜が明ければ喧騒と泣き声で、まるで幼稚園のお庭のような賑やかさとなった。

ところで、私は家内の育児の手際、殊にその気持ちのありどころに対しては、密かに深い注意を払ってきた。そして、自分の子が産まれてからというものは、さらに深刻な疑い深いと思えるほどの眼光を、家内の挙措に注いだのである。

私には、自分の子よりも、上の二人の子供に不憫が掛かっていた。