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ほうえいふんか

宝永噴火

岡本 かの子

「文学界」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页

青空文庫

美濃の大垣の町から西北に当って、町へは一日のうちに往来出来る里程のところに在る檜木村の瑞雲寺へ来てみると、聞きしにまさる破れ寺で、寄宿して勉強するのは許して呉れたが、台所向きは苦しそうで、待遇は随分ひどかった。それに師匠とたのむ馬翁というのは、学問はあるに違いないが、ひどく癖のある老僧で、美濃の荒れ馬と綽名されるほど人当りが苛酷だった。しかし慧鶴は兼て覚悟のことでもあるし、また、ともすれば清水のことが想い出される腑甲斐ない心を何かの強い刺戟で眼の前の境遇に釘付けにして貰うことは、寧ろ必要とするところでもあったので、笞を嬉ぶ贖罪者の気でじっと辛抱して勉強した。そういう事情に促進されて、詩文の技倆はどしどし上達し、寺へ訪ねて来る当時有名な詩人達と百句の連句を作るのに線香二三本の間に出来てしまうほど、短い期間の割には熟練を遂げた。

だが、この程度に達してみて、うすうす判って来たのは、やっぱり詩文の稽古は自分に取って本筋の欲望ではなさそうだということであった。なるほど、当時有名な詩人と詩を作り合って存在を認められ、また同学の連中をぐんぐん抜いて行って上達する気持は悪い気持でありよう筈はない。