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ほうえいふんか

宝永噴火

岡本 かの子

「文学界」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页

青空文庫

白隠がこどものとき、こどもから青年にまで生い立つあいだ、朝夕、眼に親しんだ富士の姿はこのようなおっとりしたものであった。その煙も段々うすれて行って白隠の慧鶴が清水禅叢にあって人生問題に悩み、神経衰弱になり、現実性の薄い恋愛をし、美濃の馬翁のもとへ奔る時分には、その煙さえ全く絶えてしまっていた。あの巨大な土の堆積も頂から細いながら一筋の煙の立昇っているうちは、息の洩らし口があるようで、まだ、いくらか楽な気持で眺め渡された。しかしそれが今のように、全く途絶してしまうと、こどものうちから見慣れている眼にはまるで窒息しつつある怪物のように思えて、慧鶴には、惨たらしく感じられた。自分そのものが、咽喉を詰らされているような気がして、じっとしてはいられなかった。そのくせ、富士自身は取り澄した姿で冷たく人を見下している。何という人の気を焦らさす山だ。慧鶴自身、これも、気力の弱ったわが心身の変調かと思い、何度その苦痛感を払い除けようと努めたか知れないけれど、その効はなかった。自然と自分と何の関わりがあるのだろう。そう苦笑する下から苦しい気持が胸に込み上げて来た。この中のどれが一番、重大な原因であるか判らないほど、ごちゃごちゃのものに追い立てられて彼は清水を急いで離れて行ったのであった。