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ほうえいふんか

宝永噴火

岡本 かの子

「文学界」1940(昭和15)年7月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,505 字 · 62 页

青空文庫

これは望みを持つ人間は努力精励するという褒めた言葉であって、この位でも馬翁が人を褒めた事は無し、また、その語気からこのくらい馬翁が人と親しみを露骨に出して囁いたことも無かった。慧鶴は憐れな気がして、そっと暗涙を袖で押えた。慧鶴は普通な人情よりこういう超人性を帯びた片輪な性情については生れ付きの察しと同情を持っていて、それが随分自分に不利益を持ち来すこともあるので、振切ろうと歯噛みはするがどうにもきっぱり振り切れなかった。

そうこうするうちはや、忘れ去った橘屋の娘の死消息が、詳しく母親の手紙によって報じ越された。娘は死んだ、娘はしばらく病の床に伏していたが死期を知ると、しずかに慧鶴の名を口誦み、頬に微笑のかげさえ浮べながら、そのまま他界の人となった。

身も心も弱い娘だ。だが男を思い諦らめる一方に心の精力を使い切り、強いて慧鶴に対する自分の慾望を実現しようとも望まなかったらしい。胸に思い溜めた情熱を美しく培うことに力一ぱいらしくあった。もし娘がそれを望んで慧鶴と結婚とでもいう事が眼の前に実現したならば彼女はあまりの生々しさに却って眉を顰めたかも知れない。