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いえのはなし
家の話
柳田 国男
「奉公」奉公会、1918(大正7)年1月~4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,799 字 · 23 页
帯刀もまた同じことで、もはや抜いて犬を切ることもできぬような農家の主人が、やはり公然と刀を帯ぶることを、この上もなき面目と考えたのである。
そこで人気の悪い地方では、何の素性も知れぬ馬の骨が、吝嗇・貪慾ないしは幸運によって、一門の旧家であるがごとく反りかえって歩くと、後ろ指をさす者などもあったか知らぬが、実は今日のごとく経済上の異動の激烈でない時代においては、やはり従来苗字を用い大小を帯びる身分であったものの子孫が、多数この特権にありついて新たに大いに喜んだということになるのである。言葉を換えていえば、昔の地侍に近い生活に戻るということを、最も熱心に希望したものは、かつてこれを失って悲しんだ者の曾孫玄孫で、彼等の血の中には、依然中世の武家の熱情が、久しく眠っていてついに覚めたのである。
稀にはさようでない成り上りものの例もあるにしても、少なくも近世農民の社会における一般の好尚の、家名すなわち地侍に近い生活を保つことに、その中心を置いたことは事実である。今もって地方を歩けば、旦那大家というものの地位が、諸人の羨望の的であって、一代に身上を作ったものの器量と才覚では、とうていこれと競争もできず、本人たちもまたたとい隆々たる家運を誇ることはできぬまでも、依然としてわが格式に相応した一段と高尚なる道徳律を守って