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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

「まあ、豊世さん――」

お雪は襷を釈した。張物もそこそこにして、正太の細君を迎えた。

「叔母さん、真実にお久し振ですねえ」

豊世は入口の庭で言って、絹の着物の音をさせながら上った。

久し振の上京で、豊世は叔母の顔を見ると、何から言出して可いか解らなかった。坐蒲団を敷いて坐る前に、お房やお菊の弔みだの、郷里に居る姑からの言伝だの、夫が来てよく世話に成る礼だのを述べた。

「叔母さん、私もこれから相場師の内儀さんですよ」

と軽く笑って、豊世は自分で自分の境涯の変遷に驚くという風であった。

「種ちゃん、御辞儀は?」とお雪は眼を円くして来た子供に言った。

「種ちゃんも大きく御成なさいましたねえ」

「豊世叔母さんだよ、お前」

「種ちゃん、一寸来て御覧なさい。叔母さんを覚えていますか。好い物を進げますよ」

種夫は人見知りをして、母の背後に隠れた。

「種ちゃん幾歳に成るの?」と豊世が聞いた。

「最早、貴方三つに成りますよ」

「早いもんですねえ。自分達の年をとるのは解りませんが、子供を見るとそう思いますわ」

その時、壁によせて寝かしてあった乳呑児が泣出した。お雪は抱いて来て、豊世に見せた。