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いえ
家
島崎 藤村
02 (下)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页
女中が火を運んで来た。洋服で震えて来た三吉は、大きな食卓の側に火鉢を擁えて、先ず凍えた身体を温めた。
正太は料理を通して置いて、
「それからねえ、姉さん、小金さんに一つ掛けて下さい」
「小金さんは今、彼方の御座敷です」
「『先程は電話で失礼』――そう仰って下されば解ります」
それを聞いて、女中は出て行った。
「叔父さん、こうして名刺を一枚出しさえすれば、何処へ行っても通ります――塩瀬の店は今兜町でも売ッ子なんですからネ」と正太は、紙入から自分の名刺を取出して、食卓の上に置いて見せた。
正太の話は兜町の生活に移って行った。漸く塩瀬の大将に知られて重なる店員の一人と成ったこと、その為には随分働きもしたもので、他の嫌がる帳簿は二晩も寝ずに整理したことを叔父に話した。彼は又、相場師生活の一例として、仕立てたばかりの春衣が仕附糸のまま、年の暮に七つ屋の蔵へ行くことなどを話した。
「そう言えば、今は実に可恐しい時代ですネ」と正太は思出したように、「此頃、私がお俊ちゃんの家へ寄って、『鶴ちゃん、お前さんは大きく成ったらどんなところへお嫁に行くネ』と聞きましたら――あんな子供がですよ――軍人さんはお金が無いし、お医者さんはお金が有っても忙しいし、美い着物が着られてお金があるから大きな呉服屋さんへお嫁に行きたいですト――それを聞い