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いえ
家
島崎 藤村
02 (下)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页
弱い子供だから、お雪さんが心配すると不可。ワンワンも持たせてやりたいが、可いわ、私がまた訪ねる時にお土産に持って行かず」
三吉は眠そうな子供を姉の手から抱取った。
「坊ちゃまのお下駄はいかがいたしましょう」と老婆が言葉を添える。
「ナニ、構いませんから、新聞に包んで私の懐中へ捩込んで下さい」
こう三吉は答えて、「種ちゃん、吾家へ行くんだよ」と言い聞かせながら、子供を肩につかまらせて出た。種夫は眠そうに頭を垂れて、左右の手もだらりと下げていた。
「まあ御可愛そうに、おねむでいらッしゃる」と老婆が言った。
三吉が自分の家へ子供を運んで置いて、復た電車で引返して来た頃は、半鐘が烈しく鳴り響いていた。細い路地や往来は人で埋まった。お仙が居なく成ったというさえあるに、加に火事とは。三吉は仰天して了った。火は正太の家から半町ほどしか離れていなかった。
「これはまあ何という事だ」
というお種の言葉を聞捨てて、三吉は二階へ駆上った。続いてお種も上って来た。
雨戸を開けて見ると、燃え上る河岸の土蔵の火は姉弟の眼に凄じく映った。どうやら、一軒で済むらしい。見ているうちに、すこし下火に成る。