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いえ

家

島崎 藤村

02 (下)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 141,411 字 · 285 页

青空文庫

部屋の障子の開いたところから、青桐の葉が見える。一寸三吉は廊下へ出て、町々の屋根を眺めた。

「お前が探して来た家は、二階があると言ったネ。二階も好いが、子供にはアブナイぞ。橋本の仙(正太の妹)なぞは幼少い時分に楼梯から落ちて、それであんな風に成った――夫婦は二階で寝ていて知らなかったという話だ――」

「でも、お仙さんは、房ちゃんと同じ病気をしたと云うじゃ有りませんか」

「何でも俺はそういう話を聞いた」

三吉は森彦の前へ戻って、眼に見えない二階の方を見るように、しばらく兄の顔を見た。

間もなく三吉はこの二階を下りた。旅舎を出てから、「よく森彦さんは、ああして長く独りで居られるナア」と思ってみた。電車で新宿まで乗って、それから樹木の間を歩いて行くと、諸方の屋根から夕餐の煙の登るのが見えた。三吉は家の話を持って、妻子の待っている方をさして急いだ。

家具という家具は動き始めた。寝る道具から物を食う道具まで互に重なり合って、門の前にある荷車の上に積まれた。

「種ちゃん、彼方のお家の方へ行くんですよ」

とお雪は下婢の背中に居る子供に頭巾を冠せて置いて、庭伝いに女教師の家や植木屋へ別れを告げに行った。