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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
自分の子が関係した女――それを豊世が何時の間にか嗅付けていて、人知れずその為に苦みつつある様子を見ると、お種は若い時の自分を丁度眼前に見せつけられるような心地がした。
不思議にも、貞操の女の徳であるということを口の酸くなるほど父から教えられたお種には、夫と他の女との関係が一番煩く光って見えた。で、お種は自分の経験から割出して、どうすれば男というものの機嫌が取れるか、どうすれば他の女が防げるか、そういう女としての魂胆を――彼女が考え得るかぎり――事細かに嫁の豊世に伝えようと思った。夏の夜の寝物語に、お種は姑として言えないようなことまで豊世に語り聞かせた。こんな風にして、姑と嫁との隔てが取れて来た。二人は親身の親子のように思って来た。
ある日、豊世はお種に向って、
「母親さん、今まで貴方には隠していましたが……真実に父親さんのことを言いましょうか」
こう言出した。お種は嫁の顔をつくづくと眺めて、
「復た……母親さんを担ごうなんと思って……」
「いえ、真実に……」
「豊世や、お前は真実に言う気かや……待てよ、そんなこと言われただけでも私は身体がゾーとして来る……」