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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

三吉も膝を進めて、「しかし、橋本の方なぞは、一朝一夕に起った出来事じゃないんでしょうネ。私が橋本へ行ってた時分――あの頃のことを思うと、ナカナカ達雄さんも好く行っていましたッけがナア――非常な奮発で。それともあの頃が一番好い時代だったのかナア」

「なにしろ、お前、正太の婚礼に千五百両も掛けたとサ。そういうヤリカタで押して行ったんだ」

「姉さんなぞが又、どうしてそこへ気が着かずにいたものでしょう」

「そりゃ、心配は無論仕ていたろうサ。細君が帯を欲しいと言えば帯を買ってくれる、着物が欲しいと言えば着物を買ってくれる――亭主に弱点が有るからそういうことに成る。姉さんの方ではそうも思わないからネ。まあ、心配はしても、それほどとは考えていなかったろうサ」

好い加減にこういう話を切上げて、三吉はこの兄の直接関係したことを聞いてみようとした。達雄のことに就いて、尋ねたいことは種々あった。先ず夕飯の仕度を宿へ頼んだ。

この町中にある旅舎の二階からは、土蔵の壁、家の屋根、樹木の梢などしか見えなかった。しかし割合に静かな座敷で、兄弟が話をするには好かった。

「どうして達雄さんのような温厚しい人に、あんな思い切ったことが言えたものかしらん」