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いえ

家

島崎 藤村

01 (上)

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页

青空文庫

「房ちゃんも菊ちゃんも頂いて了ったら、すこし裏の方へ行って遊んで来るんですよ。母さんが何していらっしゃるか、見てお出なさい――母さんは御洗濯かナ」

「伯母さん、復た遊びましょう」とお房が言った。

「ええ、後で」とお種は笑って見せた。「伯母さんは父さんの許で御話して来るで――」

子供は出て行った。

三吉はその年の春頃から長い骨の折れる仕事を思立っていた。学校の余暇には、裏の畠へも出ないで、机に向っていた。好きな野菜も、稀に学校の小使が鍬を担いで見廻りに来るに任せてある。

「三吉さん、御仕事ですか」とお種は煙草入を持って、奥の部屋へ行った。彼女は弟の仕事の邪魔をしても気の毒だという様子をした。

「まあ、御話しなさい」

こう答えて、弟は姉の方へ向いた。丁度お種も女の役の済むという年頃で、多羞しい娘の時に差して来た潮が最早身体から引去りつつある。彼女は若い時のような忍耐力が無くなった。心細くばかりあった。

「妙なものだテ」とお種が言出した。この「妙なものだテ」は弟を笑わせた。その前置を言出すと、必とお種は夫の噂を始めるから。

「旦那も来年は五十ですよ。その年に成っても、未だそんな気でいるとは。