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いえ
家
島崎 藤村
01 (上)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 126,748 字 · 254 页
と実は笑いながら点頭いた。
名倉の母や兄からは、停車場までは見送らないと言って、お雪の許へ箪笥を買う金を二十円ほど届けて来た。別離の言葉が取換された。三時頃には、夫婦は上野の停車場へ荷物と一緒に着いた。多くの旅客も集って来ていた。
暗くなって三吉夫婦は自分等の新しい家に着いた。汽車の都合で、途中に一晩泊って、猶さ程旅を急がなかった為に、復た午後から乗って来た。その日のうちに着きさえすれば可い、こういう積りであったので。お雪は汽車を降りるから自分の家の庭に入るまで、暗い、知らない道を夫に連れられて来た。
庭を上ると、直ぐそこは三尺四方ばかりの炉を切った部屋で、炉辺には年若な書生が待っていた。この書生は三吉が教えに行く学校の生徒であった。
「明日は月曜ですから、最早それでも御帰りに成る頃かと思って、御待ち申していました」と書生はお雪に挨拶した後で言った。
「大分ユックリやって来ました」と三吉も炉辺に寛いだ。
お雪は眺め廻しながら、
「へえ、こういうところですか」
と言って、書生に菓子などを出して勧めた。先ず眼につくものは、炉に近い戸棚、暗い煤けた壁、大きな、粗末な食卓……