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ふじ

富士

岡本 かの子

「文芸」1940(昭和15)年11月号~1941(昭和16)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 40,579 字 · 82 页

青空文庫

女は容貌も美しかったので、かかる才能と共に、輩下の部落の土民の間で褒めものにされた。ふた親にとっては自慢の総領娘となった。

ふた親にとっては姉に当り、自分にとっては伯母に当る駿河能国の福慈の女神のことについては、どういうものかふた親はあまり多くを語らなかった。語るのを好まないようだった。強いて訊くと「あんな伯母さんのことを気にかけるものではありません」「仔細あって私たちは交際ってはいません」「あれで、なかなか裏に裏のある女でね」「あんな大きな山に住えば誰だって評判はよくなるさ。いってみれば運のよい女さ」「私たちと違って苦労知らずの女さ」「女のことは何一つできないあれが、どうして評判がいいのだろう」まずは悪評に近い方だった。しかしそれでいて、人々がふた親の目の前で福慈岳と女神のことを褒めると、ふた親は女神は自分たちの姉であることを明して、近しい眷属であることを誇った。

水無瀬女は、ときどき山の峯の鞍部のところへ上って、伯母の山を眺めた。煙霧こそ距つれ、その山は地平の群山を圧して、白く美しく秀でていた。

「やっぱり、立派だわ、うらやましいわ」

と声に出して言った。