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あひるとさる
寺田寅彦随筆集 第五巻
寺田 寅彦
寺田寅彦『寺田寅彦随筆集 第五巻』。同一底本的分册已合并为一书。收入:あひると猿、疑問と空想、映画と生理、映画雑感(Ⅲ)、映画雑感(Ⅳ)、災難雑考、三斜晶系、糸車、詩と官能、自由画稿、小浅間、小爆発二件、地図をながめて、天災と国防、日本人の自然観、破片、俳句の型式とその進化、俳句の精神、物売りの声、B教授の死。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 194,515 字 · 389 页
二 とんぼ
八月初旬のある日の夕方信州星野温泉のうしろの丘に散点する別荘地を散歩していた。とんぼが一匹飛んで来て自分の帽子の上に止まったのを同伴の子供が注意した。こういう事はこの土地では毎日のように経験することである。
ステッキの先端を空中に向けて直立させているとそれに来てとまる。そこでステッキをその長軸のまわりに静かに回転させると、とんぼはステッキの回るのとは逆の方向にからだを回して、周囲の空間に対して、常に一定の方向を保とうとする。そういう話を前日子供たちから聞いていたのではたして事実かどうか実験してみようと思った。
帽子を離れたとんぼが道ばたの草に移った。そのそばにステッキの先端を近づけて二三度あやつっていたら、うまく乗り移って来た。静かにステッキを垂直に取直しておいて、そろそろ回転させてみた。はじめはいっこうに気づかないようであるが九十度以上も回転すると何かしら異常を感じるらしく、つかまっている足を動かしてからだをねじ向ける。しかしそれはわずかに十度か二十度ぐらい回転するだけで、すっかり元の方向まで向き直るようなことはない。なんべんも繰り返してみたが同じ結果であった。