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ちいさきなにも

小さき花にも

豊島 与志雄

「光」1948(昭和23)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,115 字 · 21 页

青空文庫

もう締切りもすぎておりますから……。」

少しはかけねがあるのだ。先生はそれは知ってるらしい。

「よろしい。明後日の朝までには、きっと書くよ。だが、君のところは……。」

先生は私の名刺に眼を落しながら、はたと言葉を切って、私の顔をじっと見つめた。余り長く見つめられ、私は固くなって、顔を伏せた。先生はまだ見つめている。それからふいに笑いだした。

「なあんだ。君か。道理で似てる筈だ。本人じゃないか。」

何のエピソードかと、お友達が尋ねると、先生はまた笑って、このひとは小杉喜久子に似てると思ったが、その小杉喜久子がこのひとだったと、ばかなことを言う。それも本気で、少しの衒いもないのだから、いっそうばかばかしい。

「よく似てると思ったら、本人だった。これは奇遇だ。一杯飲めよ。祝杯だ。」

私は飲めないと断ったが、しいてお猪口を持たせられて、祝杯を挙げさせられた。

一座は陽気に浮き立ってきた。

「君は似てるね。」

「誰にだい。」

「山田にさ。」

「俺が山田だ。」

「それは奇遇だ。」

そして祝杯。

「君は似てるね。」

「誰にだい。」

「野島にさ。」

「俺が野島だ。」

「それは奇遇だ。」

そして祝杯。