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ちいさきなにも

小さき花にも

豊島 与志雄

「光」1948(昭和23)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,115 字 · 21 页

青空文庫

いくら背丈がちがうからといって、首縊りみたいな真似をしなくてもよさそうなものだ。そしてあんなところで、醜い桜の木のそばなんかで、しなくてもよさそうなものだ。恋人同士のキスにある筈の、清らかさ香り高さなぞ、みじんもなかった。

そして今、手塚さんは、なんということを私に言ったか。私の方を愛していたと。おう、私の方をだって。そんなことがどうして言えるのだろう。そして、私の愛情を求めるつもりではないと言いながら、私の手を両手に握りしめた。汚らわしい。そして、分りますね、分ってくれますねだと。いったい、何を分って貰いたいのだろう。然し、私にも少し理解しかけたことがある。

手塚さんは、郷里に帰っても、私のとこの二階の室は、やはり借りておいて、荷物はそっくり置いてゆくとのこと。いつ戻ってくるか分らないと言いながら、予定通りに半年ばかりで戻ってくるつもりなのだろう。そしてその間、私の心を繋ぎとめておきたいのだ。女を引きつけるには、好意にせよ、敵意にせよ、とにかく何等かの関心をこちらに持たせることが肝要で、無関心の状態に置いてはいけないと、何かに書いてあった。愛情でなくば、むしろ憎悪を、女に懐かせることが肝要だと。