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ちいさなやぎのきろく
小さな山羊の記録
「作品 第四号」1949(昭和24)年10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,402 字 · 19 页
の人のつめたもののようであり、この関所を通らなければ、夫人も石川五右衛門も奥へは行きがたい仕組みになっているのである。又、昔は、和風の本館があったと思われるところが、洋館に造り変えられ、そこには、まだ宮様用の、紋章づきの、玉座のような椅子があった。クッションのない板のように堅い椅子で、宮様はこれにかけて訪客に接したのであろうが、生活の堅苦しさが思いやられるような椅子であった。私はキャッチボールのできるような広い和室へ通され、その片隅に炬燵をつくってもらって寝倒れていた。
ただ失意のみをいだいて、京都から戻ってきた。それでも一月中は、まだ覚醒剤を用い、衰えはてた注意力をなんとかしてかきたて、仕事をしようと努力した。虚しかった。一行も、書けなかった。
闘い破れたと悟ったのは、一月の二十五日頃であったかも知れない。このまゝの肉体的な条件では、一行といえども書きがたいことを悟ったのである。洟汁は、もう、普通ではない。私は、ようやく、これは蓄膿症だと思った。私の全身は、象皮病のように荒れて、堪えられぬかゆさであった。
私は覚醒剤をやめた。書くことを、やめたのだ。