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こいずみやくものかていせいかつ
小泉八雲の家庭生活
萩原 朔太郎
室生犀星と佐藤春夫の二詩友を偲びつつ
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,379 字 · 33 页
そうしたヘルンの家庭では、自然界のちょっとした出来事や現象やが、いつも物珍らしく大騒ぎの種になるのであった。たとえば裏の竹藪に蛇が出たとか、蟇が鳴いてるとか、蟻の山が見つかったとか、梅の花が一輪咲いたとか、夕焼が美しく出ているとかいうようなことを、だれか家人の一人が発見すると、一々それをヘルンの所へ報告に行く。するとヘルンは大悦びで部屋をとび出し、『いかに可愛きでしょう』とか『なんぼ楽しいの声でしょう』とか『いかに綺麗』とか言いながら、何時間もその小動物を眺めたり、夕焼雲を見たりして悦ぶので、そうした小事件が見つかるたびに、女中や書生等の家人たちが、さも大手柄の大発見をしたように、功を争ってヘルンの所へ馳つけるので、いつも家中が和やかに賑っていた。
しかし仕事をしている時のヘルンは、最も気むずかしやの八釜しい主人であった。家内のちょっとした物音や話声にも、感興を破られたといって苦情を言った。夫人でさえも書斎に入ることは許されなかった。ちょうど『美しいシャボン玉』を壊さないように、注意に注意して気をつけましたと、未亡人となった夫人が後で言っている。