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こいずみやくものかていせいかつ

小泉八雲の家庭生活

萩原 朔太郎

室生犀星と佐藤春夫の二詩友を偲びつつ

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,379 字 · 33 页

青空文庫

おそらくヘルンはその時初めて心の隅に、幸福という物の侘しい実体を見たのであろう。

すべて貧困の家に育ち、肉親の愛にめぐまれずして家庭的、環境的の不遇に成長した人々は、そのかつて充たされなかった心の飢餓を、他の何物にも増して熱情するため、後に彼が一家の主人となった場合、その妻子の忠実な保護者となり、家庭を楽園化することに熱心である。ラフカジオ・ヘルンの場合も、またその同じ例にもれなかった。彼が日本に帰化したことも、普通の常識が思惟するように、日本を真に愛したからではなかった。その頃の彼は、日本をもはや『夢の国』としては見ていなかった。そして『西洋の国々と同じく、ここにもやはり醜い生存競争があり、常々不義や奸計が行われている』と、地上の現実社会である日本を見ている。詩人がその空想の中で画くような、ファンタスチックな夢の国は、現実の地球上にあるはずがない。しかも宿命的な詩人の悲願は、その有り得べからざる夢の国を、生涯夢見続けることの熱情にある。初めからボヘミアンであったヘルンは、晩年においてもなおボヘミアンであり、永遠に故郷を持たない浦島だった。もし彼に妻子がなかったら、日本に幻滅した最初の日に、再度また『まだ知らぬ新しい国』