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しょうじょじごく

少女地獄

夢野 久作

「少女地獄」黒白書房、1936(昭和11)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,174 字 · 206 页

青空文庫

まだ時間がありますから……」

と落ち着いた声で仰言って、私の手を引かんばかりにして正面の階段を昇って、二階の廊下のズッと突き当りの空いた教室の片隅に、私をお連れ込みになりました。そうして、やはりこの上もない御親切な、気高い、慈悲深い顔をなすって、

「どうです。お父さんからのお話を聞かれましたか。大阪へ行く決心が付きましたか」

と仰言って、もう一度ニッコリされました。

その校長先生のお顔は、二、三日前の御記憶なんかミジンも残っていないお顔付きでした。柔和なお顔の皮膚がつやつやしく輝いて、神様のような微笑がお口のまわりをさまようておりました。……あの晩の事は夢じゃなかったのか知らん……あたしは何かしらとんでもない夢を見て、こんなに思い詰めているのじゃなかったか知らん……とさえ思ったくらいでした。

それでも私は、考えようのないような考えで頭の中を一パイに混乱させながらも、キッパリと大阪行きをお断りしたように思います。その時には別段に嬉しくも、悲しくも、腹立たしくも何ともなかったようですが、多分、私の脳髄がまだシビレていたせいでしたろう。

しかし校長先生は、お諦めになりませんでした。