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しょうじょじごく
少女地獄
夢野 久作
「少女地獄」黒白書房、1936(昭和11)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 105,174 字 · 206 页
何んでも無い
何んでも無い
白鷹秀麿兄 足下
臼杵利平
小生は先般、丸の内倶楽部の庚戌会で、短時間拝眉の栄を得ましたもので、貴兄と御同様に九州帝国大学、耳鼻科出身の後輩であります。昨、昭和八年の六月初旬から、当横浜市の宮崎町に、臼杵耳鼻科のネオンサインを掲げておる者でありますが、突然にかような奇怪な手紙を差し上げる非礼をお許し下さい。
姫草ユリ子が自殺したのです。
あの名前の通りに可憐な、清浄無垢な姿をした彼女は、貴下と小生の名を呪咀いながら自殺したのです。あの鳩のような小さな胸に浮かみ現われた根も葉もない妄想によって、貴下と小生の家庭は申すに及ばず、満都の新聞紙、警視庁、神奈川県の司法当局までも、その虚構の天国を構成する材料に織込んで来たつもりで、却って一種の戦慄すべき脅迫観念の地獄絵巻を描き現わして来ました彼女は、遂に彼女自身を、その自分の創作した地獄絵巻のドン底に葬り去らなければならなくなったのです。その地獄絵巻の実在を、自分の死によって裏書きして、小生等を仏教の所謂、永劫の戦慄、恐怖の無間地獄に突き落すべく……。
その一見、平々凡々な、何んでもない出来事の連続のように見える彼女の虚構の裡面に脈動している摩訶不思議な少女の心理作用の恐しさ。