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しょうねんとうみ
少年と海
加能 作次郎
「赤い鳥」1920(大正9)年8月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,808 字 · 10 页
一
「お父、また白山が見える!」
外から帰って来た為吉は、縁側に網をすいている父親の姿を見るや否や、まだ立ち止らない中にこう言いました。この為吉の言葉に何の意味があるとも思わない父親は、
「そうかい。」と一寸為吉の方を見ただけで、
「どこに遊んでおった?」と手を休めもせずに言いました。
「浜に、沖見ていたの。」と為吉は縁側に腰掛け、「白山が見えとる。」ともう一度言いました。
父親は始めて手を休めて不思議そうに為吉の顔をしげしげと眺めました。そして、
「白山が見えりゃ何だい?」と優しく言いました。
父親はこの頃為吉が妙にふさいでばかりいるのが合点がいかないのでした。為吉はまだ八つでしたが、非常に頭のよい賢こい子で、何かにつけて大人のような考を持っていました。神経質で始終何か考えてばかりいる子でした。
為吉はうつむいて前垂の紐をいじっていて暫く答えませんでした。何か心の中で当てにして来たことが、ぴったり父の心に入らないで、話の気勢をくじかれたような気がしたのでした。そしてまだ自分の思うていたことを言わない先に、
「浜に誰かおったか?」と父親に尋ねられて、いよいよ話が別の方へそれて行くのをもどかしいように情ないように感じました。