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しょうねんとうみ

少年と海

加能 作次郎

「赤い鳥」1920(大正9)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,808 字 · 10 页

青空文庫

「誰もおらなんだ。」

「お前一人何していたい?」

「沖見とったの。」

「えい、そうか。」と父親は腑に落ちぬ顔付をしましたが、深く尋ねようともしませんでした。

為吉はなおもじもじしていましたが、ふと思いついたように、

「暴風になって来ぬかしら?」と言いました。

「なぜ? なりそうな様子かい?」と父親は不思議そうに尋ねました。

「白山が見えてるから。」

「白山が見えたって、お前。」

「それでも、暴風になる時には、いつでも白山が見えるもの。」

父親は為吉が変なことを言うなと思いましたが、別に気にもとめず、

「どうもないだろう。」と坐ったまま廂の先から空を見上げて、「大丈夫やろう、あの通り北風雲だから。」と言いました。

「それでも白山が見えるから、今に南東風になるかも知れん。僕が沖を見ていたら、帆前船が一艘、南東風が吹いて来ると思うたか、一生懸命に福浦へ入って行った。ありゃきっと暴風になると思うて逃げて行ったのに違いなかろう。」と為吉は自信があるように言いました。

父親はにっこり笑いました。為吉の子供らしい無邪気の言葉が、父親にはおかしい程でした。そして、

「お前、三里も向うが見えるかい?」