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しょうねんとうみ

少年と海

加能 作次郎

「赤い鳥」1920(大正9)年8月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,808 字 · 10 页

青空文庫

この新しい恐ろしい出来事が為吉の頭にきざみ込まれているのでした。彼は今日学校から帰って、直ぐ浜へ遊びに行ったのですが、ふといつもの福浦岬の端の水天髣髴としているところに、白山の恐ろしい姿が薄青く浮んでいるのを見とめたので、早速父親に注意しに来たのでした。恐らく父親はこれを聞いたら、それは大変だ、早く船を揚げねばならぬと言って、浜へ飛び出して来るだろうと思っていましたが、父親は、一向平気でいるので、為吉はひどく張合が抜けたのでした。で、暫く黙って、家の前の野菜畑の上に眼を落していましたが、急に思い出したように、

「お父、あの仏壇の抽出しに、県庁から貰うた褒美があるね?」と尋ねました。

「何? そんなものがあるかな。」と父親はいぶかしそうに尋ねました。

「あのう、ほら暴風に遇うた船を助けた褒美だよ。」

父親はまるで自分とは関係のない昔話でも聞かされるような気がしました。

「そんなものがあったかな。そりゃお前、十年も昔のことで、お前がまだ生れない前のことだったが。」

遠い遠い記憶を呼び起すように、為吉の父はかがまっていた長い背を伸して、じっと向うの方を見つめました。