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しょうねんのし

少年の死

豊島 与志雄

「新潮」1916(大正5)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,400 字 · 27 页

青空文庫

今のうちにどうにかしないと、私達の方が負かされっちまうよ。お前さんのような飲んだくれにはその時にならなけりゃあ分らないのさ。だが私にはちゃんと分ってるんだよ。」

圧吉はそんな話を影からききながら、「今に何事か起るぞ」というような気がして心のうちが緊張した。そうすると自分のうちにも力が湧いて来るように思えた。

彼は其処から忍び出て、何気ない風をして家に入った。

「何を今頃まで愚図々々していたんだい。」と小母さんは怒鳴って、じろじろ彼の姿を眺めた。

「親分のうちに用があったんだよ。」と庄吉は答えた。

「小母さんなんかどうにでもなる」と腹の中で庄吉は思った。然し妙に何かしら脅かされるような気持ちを彼は常に感じた。

丁度十一月のはじめのいくらかまだ暖い日の夕方であった。庄吉は例の隠れ場所に身を潜めた。家の中には誰か人が来ているらしい気配がして、いつもと違って低い話声が洩れた。然し庄吉には何の話しだか少しも聞き取れなかった。ただ「庄吉」という自分の名だけが音の調子でそれと分った。然し彼はそれが何か自分の身の上に重大な関係のあるものであることを直覚した。話声はひそひそと長く続いた。